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舞-HiMEシリーズ中毒の夜壱が書く静なつ中心の非公式SSサイト

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阿炎 夜壱
「初めに」→ここの作品を楽しむに当たって最初に読んで欲しい大切な事。
「頒布物」→VerticalEditorの書式設定やふうかたいせんのパッチなど。
「作品紹介」→主に長編作品について解説しています。

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WolfsBane Revenger4

古城と言った風情の外観にクラシカルな内装。
調度品はシックな物で統一されており、内観は総体的に見て小ざっぱりとした印象を受ける。
使用人の数は少ないもののパッと見た限りどこもかしこも綺麗に保たれていて、下手な貴族の豪邸よりよほど洗練されているなと、ナツキの城館に招かれてお湯を頂いたシズルはそう感じた。

(にしても流石バター犬とまで呼ばれとる方のお風呂や。
まさか公衆浴場並みの大きさを拵えとるやなんて……そら諸侯がこぞって来たがる訳やわ)

この時代、入浴の文化はあったが、バスタブを持っているのは貴族だけだった。
それも木桶で出来ていて、当たり前のように雅さなど欠片もない。
だと言うのに、この城のお風呂は違った。
広々とした空間に大理石を用いた大きな窪地が作られ、そこにたっぷりのお湯とローマンカモミールの花で満たされていたのである。
思わずシズルが入浴介助の使用人に何故このような事が可能なのかと訊ねたら、火を起こす為の木々が周囲に山ほど生い茂っており、何より城の近くに湖畔があるお陰でここではいつでも好きな時に好きなだけ湯浴が出来るのです、と教えて貰った。
ついでにマイロード唯一の憩いでもあるから拘っているのだ、とも。

(他にも有能な吟遊詩人と剃髪師を揃えとったり、都市部と変わらへんサービスぶりやった。
……たかだかご機嫌窺いをする為にここまでするやなんて尋常やない。
クルーガー卿は一体何を思って、こんなにも接待する事に心血を注いでるんやろ?)

ここまでの設備を維持するには、それはもうお金が掛かって仕方がないだろう。
流石にある程度他の貴族から寄付を受けていると考えられるが、それでも田舎貴族が持つには過ぎた舞台装置だ。
全ては最後に残った領地を奪われないようにする為との事だが、その領地の大半を他の貴族に貸し出すぐらいなら軍備に費やした方が余ほど牽制になる筈で、政治的駆け引きもしていないという噂話を鑑みるに、ナツキがやっている事は何もかも割に合わないの一言に尽きる。
まぁ実際には何か裏取引がされているのかもしれないが、どうしてこんな不毛な真似をしているのかとシズルは疑問に思わずにはいられない。
だがそんな事を考えているだなんておくびにも出してはいなかった。
そんな彼女は案内役を仰せ付かったパーラーメイド客間女中の後に続いていたのだが、ふと彼女は厳かな装飾が施されたドアの前で立ち止まると、柔和な面持ちをシズルに向けた。

「さぁお嬢様こちらへ。マイロードがお待ちになっております」
「……えぇ」

あの冷艶清美な麗人とまた会えるのだと思うだけで、シズルの頬は薄っすら紅潮した。
そして高鳴る心臓の鼓動を落ち着かせる間もなく、清廉な雰囲気の婦女子によって大客間のドアがギィと開かれてゆく。

「――あぁレディ、ようこそお越し下さいました」

ソファに座っていたナツキはシズルの姿を認めるなり席を立って歩み寄ると、腰から上体を前に折って頭を下げるお辞儀、所謂ボウ&スクレイプと呼ばれる極めて礼儀正しい挨拶を行った。
その美しい所作は勿論、どこの娘か未だ判らぬ相手に不敬は働くまいと心掛ける慎重さにもシズルは見惚れてしまい、いつもならすぐ反応を返すのに今は口を開く事すらワンテンポ遅れてしまう。
ナツキはそれを初めて会う異性の前だから緊張しているのかと勘違いすると同時に、即座に気を回して「ご気分の方はいかがですか?」と訊ねて微笑み掛けた。
お陰でシズルはハッと我に返り、依然として頬を薄紅色に染めながらもきっちり居住まいを正した。

「はい……もうすっかり落ち着きました。
クルーガー卿の寛大なご厚意に感謝申し上げます」

普通ならここでスカートの両裾を摘まみ上げて身体を真下に落とすカーテシーを返すのだが、シズルはそれをしなかった。
感謝を述べるならせめて頭ぐらいは下げるものだろう、と誰しも思う事だろう。
しかし上の立場に居る者が下の者に敬意を表し頭など下げれば、それこそ相手の立場を脅かしかねない非常識な行為となる。
だからシズルは感謝の言葉と共に目蓋を伏せる程度に留めておいたのだ。
それに対してナツキは一瞬目を丸くしたが、やはり自分より上位の者だったかとすぐに察し、甘いマスクを被ったまま恭しく口火を切った。

「いえ、当然の事をしたまでですよ。
それよりレディ、そろそろお名前をお訊ねしても……?」
「失礼致しました。わたくしはこのカルデア帝国の皇帝に仕える筆頭顧問官――その娘であるシズル・ヴィオーラと申します」
「ヴィッ……オーラ侯爵様の、ご息女であらせられましたか」

思いもよらぬ人物と邂逅した事に、ナツキはポーカーフェイスを崩すほどギョッと驚いてしまった。
何故なら筆頭顧問官とは皇帝の政務を補助する宰相役の事であり、実質この国の政治を牛耳っているとも過言ではない人物だからだ。
しかも侯爵の位を持っており、その立場から公爵も同然な権力を持っているときている。
都市部に出て社交界に顔を出したりしない限り、ナツキが一生掛かってもお目見えする事のない上級貴族……シズルはその娘で、しかもたった一人の後継者。
もしあの時助けに向かっていなければ、首が飛んでいたのは自分の方だったとナツキは堪らずサーッと血の気を引かせる。
がしかし、それと同時に〝コレは使える〟と思った。
だってシズルはいずれ侯爵家を引き継ぐ女となる。
そしてあまり権力を持ち過ぎれば皇族に目を付けられる事となる為、何か特別な事情でもない限り、両親の意向により敢えて下級貴族の男と結婚させられるのは目に見えていた。

(で、あれば――私こそが、最も夫に相応しい)

侯爵家、それも筆頭顧問官の後ろ盾を得られれば、両親を手に掛けた復讐相手を突き止められるかもしれない。
辺境伯だった父親の地位を鑑みるに、その筆頭顧問官こそ復讐相手である可能性も十分高いが、それならそれで都合が良かった。
何せ敵の懐に潜り込むのと同時に、妻と言う名の人質まで確保した状態となるのだから。
それにここ最近周囲の目を考えてそろそろ結婚しなければいけないかと悩んでいた事もあり、こうしてシズルと接点を持てた事は、ナツキにとって様々な意味で千載一遇のチャンスに他ならなかった。
勿論本来の性別を思えば結婚生活に不安がない訳ではないが、良くも悪くもこの世は男性優位に出来ている。
夫になって性別を隠し通しさえすれば、多少の〝冷たい仕打ち〟など問題にはならない。

(まぁ勃……夜の相手が出来ないとなれば離縁されかねないから、そこだけはなんとかしなければならないが、それはあとで考えるとして)

男は男でなければならない。
故に行為が出来ないとなれば妻から別れを告げられて当然であった。
またそれが殆ど唯一妻側から別れを切り出せる理由だった為、逆を言えばその一点のみどうにか対処する事が出来れば、一生涯強力な後ろ盾と潤沢な財産を得る事が可能となる。
だからこそナツキはこのご令嬢のご機嫌を取ろうと思い、なんの躊躇いもなく頭を深く下げた。

「この度は貴女を危険な目に遭わせてしまい大変申し訳ありませんでした。
もう二度とあのような賊が現れないよう、領内全土の警備を強化致します。
またご滞在の間、当家の人間が周囲を監視し、全力で貴女をお守りすると誓いましょう。
それ以外にも何かあれば遠慮なくお申し付け下さい。
今回の失態を贖う為ならば、私に出来る事はなんだってさせて頂きます故――」
「あぁそんな、どうかお顔をお上げ下さい。
それにクルーガー卿は命の恩人なのです、感謝こそすれ責を問うなど致しませんわ。
大体あのような人気のないルートを安易に選んだわたくしの落ち度ですし……」
「なんと、そのように仰って下さるとは……貴女はとても情け深い方なのですね。お心遣い、誠に痛み入ります」

そう言って下げていた頭をスッと元に戻したナツキは、見るからに心から胸を打たれた表情を浮かべていた。
だがしかし、碧色の双眸には感謝もなければ安堵感すら滲ませてはいない。
のっぺりとした瞳の奥にあるのは、ギラついた野心だけだった。
シズルはそれに気付いているのかいないのか判らない様子で、自分を真っ直ぐ見下ろす麗人の視線に小さな口をきゅっと噛む。
一方のナツキはこれまで淑女の相手などまともにした事がない為に、その僅かな変化を物の見事に見過ごしてしまい、特に引っ掛かりを覚える事もないまま会話を続けた。

「しかし本当にどうして日も昇らぬ内からあんな山道を……っと、こんな所で立ち話するのもなんですね。
あちらのソファにてゆっくりお話をお聞かせ願えますか?
色々あったばかりでお辛いでしょうが、領主として事の次第を把握しておく必要がありますので……」
「えぇ、判っています。勿論構いませんわ」
「ありがとうございます。
あぁそうだ、うちの庭で採れたハーブで淹れた紅茶とフラン焼き菓子をご用意しておいたので、もしよろしければお召し上がり下さい」
「まぁ、ふふっ。わたくしの方こそお心遣い痛み入ります」

一分の隙もなくスマートな対応を見せてくれる姿に、シズルは一転して流石接待卿として名を馳せているなと思わず笑みを零した。
その笑顔の理由なんて知る由もないナツキは、良好な出だしだなと内心グッと拳を握りつつ、シズルの後ろに控えていたパーラーメイドに完全な人払いを命じて出て行かせる。
そしてさり気なくレディの細い腰を片手に抱くと、自分がさっきまで座っていたソファへとエスコートした。

意味が判らない……。

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阿炎 夜壱
皆様、こんばんは。
自分の体調が訳判らな過ぎて困惑している夜壱です。

泳ぐのを止める事は死と同義なり――と言うマグロも同然な私なので、なつ誕用のSSをちょっと仕上げたりラフを切ったり、他にもちょくちょく作業はしていたのですが、それでもなんとか頑張って出来る限り休んで安静にしていたんですけれども……やはり健康は失うのは一瞬、取り戻すのは困難、って事なのでしょうね。
未だに全快しておりません( ˆᴗˆ )
まぁ当初あった強い吐き気が頻発するような事はなくなっただけ確実にマシにはなったと言えるでしょう。
その反面、完全に症状に合っていると思って新しく買った市販薬の所為か逆に体調が悪化したり、そうかと思えば楽になったりで、ここの所爆弾低気圧もありましたしもう何がどうなっているのか全く判らなくて困惑しっ放しになっていました。
そんな訳でいつまでもこんな状態が続くのは流石にそろそろキツイので、現在服用している市販薬を全部飲み切ったら大人しく病院行って来ようと思います(´Д⊂ヽ

と、見ていて面白くもなんともない話ばかりしていても仕方がないので、一つだけお知らせをば。
明日、久し振りにWolfsBane Revengerを21時に更新します。
一応何度か推敲したので誤字脱字と重複表現はしていないと思うのですが……それでも今の状態だとやらかしてるかもしれないので、何かお気付きの事があれば教えて頂けると助かります(><)

では今夜はこれにて失礼致します。

生存報告&拍手お返事

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阿炎 夜壱
皆様、こんばんは。
ご無沙汰している夜壱です。

自主的に絶対安静を貫いていたのですが、どうにも体調が元に戻りきらず……様子見はやめてちゃんとお薬を買いました。
なので多分もうしばらくすればこの不調も治まる筈。
ちなみに病院にはまだ行っていません。
何故ならあまりにも原因が明らか――ストレスに他ならないので(苦笑)
思えば今年に入ってからなんだかんだとずっと忙しくしていて、特にこの二ヶ月くらいは本当に比喩でもなんでもなく気の休まる日が一日たりともなく、その状態でGWに入った事で張り詰めていたものが緩み、更に元々季節の変わり目に弱いタイプなので、それで一気にガタが来てしまったんだと思います。
考えてみれば丁度二ヶ月前から、あれ? と思う症状が現れていたので間違いないかと。
まぁそんな感じで未だ低空飛行な日々が続いていますが、生きてはいるので大丈夫です。
と言った所でメインの拍手お返事をば!

『マイキー』様。
こちらこそご覧頂きありがとうございました!
ここまで気負ってやる必要はあるのかと思いつつ、好きでやっている事だからこそ拘りたいと言う気持ちがあり……こ、心が二つあるぅ~! と毎回頭を激しく掻き毟りながら執筆しているだけに、その解説を興味深く見て貰えて嬉しい限りです(*´ω`*)
身体の方も気遣って下さって感謝でございます。
上記で述べたようにお薬をGET致しましたので、そう遠くない内にまた更新を始められるかと。
その時はまたお話を読んで貰えると嬉しいです♪



では本日はこれで失礼して、少しでもストレスをなくす為に休んで来ます。
……うぅっ、夜型人間から夜を奪うとは、ストレス許すまじ_:(´ཀ`」 ∠):

WolfsBane Revengerの解説その②

皆様、こんばんは。
早くも解説第二弾を持って来た夜壱です。

本当は今日本編を更新したかったんですが、GWが始まってから具合が一気に悪くなってしまい……ちょっとちゃんと書けてるかどうか判断が付かない状態なので、今回更新は見送らせて頂いて、その代わり解説の方を出す事に致しました。
そういう訳でまず前回のお話、つまり第三話に登場したクラリッサ・ホー嬢について触れますね。
言わずもがなである気がしてなりませんが、一応説明しておくと彼女は「舞-乙HiME列伝」に登場するキャラで、エルスティン・ホーのご先祖様です。
見た目はほぼエルスちゃんで、当時(アリカちゃん達の時代から約100年前)から資産家だったホー家のご令嬢でした。
http://my-zhime.net/bigbang/index.html
(↑このサイトの下の方に立ち絵があるので、興味のある方はどうぞ)
WBRでは初め登場する予定ではありませんでしたが、第二話執筆時に彼女ほどシズルさんのお付きの人として相応しい人は居ないと思い立ち、急遽ご出演頂きました。
そして間髪容れずにご退場の流れとなった訳ですが……こ、今後の大きな布石となるので、決してただのやられ役となった訳ではない事だけは書き添えておきます(汗)

次にサーベルにサブルとルビを打っていたのは、フランス語ではそう読むからです。
それ以外の意図はありません(ぇ
いやぁ今回は単純に雰囲気作りに一役買ってくれるかなと思ってそうしたんですよねw
そんな感じでノリでやっただけなので、今後もこのようにフランス語をルビに入れるかどうかは判りませんw
あ、それと麻袋にドンゴロスと補足を入れていましたが、こちらは15世紀当時実際にそう呼ばれていたからきちんと説明させて頂きました。
あと実は第一話のラスト付近、馬車と書いた部分に「コーチ」とルビを付け加えていたりします。
コーチとは一般的に想像されるような屋根とドアが付いた豪華な高級馬車の事を指しており、全てが手作業だったので約3000万もしたとかなんとか。
ついでに補足しておくと、馬は無事でしたので手綱をデュランに繋げて一緒にパッパカとお城に連れ帰っております。
(人に厳しく動物には優しい。それがWBRクオリティw)

とまぁ本編に関してはこんな感じですね。
でもこれだけだと少し寂しい気がしたので、ナツキの一日をご紹介したいと思います(唐突)
wbrNatsukiKrugerday.png

ナツキはおおよそ毎日このようなルーティンを過ごしています。
合間合間に庭園のハーブの様子を見たり、聖職者から城内の者がどんな悩みを抱えているか耳を傾けたり、商人と会合を挟んだり、そこで得た知見を元に様々な改革案を考えたり実行したりと、絶えずあちこちに出向いて気疲れしている所為で頭痛と胃痛にしょっちゅう見舞われているんですよね^^;
なお先見的過ぎる所為で周りから変わり者扱いされがちなんですが、本人は単に効率を求めてるだけでおかしい事なんて何もしてないと思ってて……そこら辺完全に血筋だったりします(笑)
あ、そそ。
一口に晩餐会と言ってもずーっと食事をしている訳ではなく、音楽やダンス、道化師による曲芸を見たりと、ゆっくり楽しい時間を過ごしています。
しかしナツキからすれば情報を得る為に相手の懐に潜り込まないといけない大事な時間なので、これっぽっちだって気を緩めてはいません。
またそうして接待している一方で、既に懇意にしている相手の為にお風呂を沸かしてあげたり、別室を貸し与えて秘密の相手と逢瀬をさせてあげたり、一足早くアヘン入りの嗅ぎ煙草を個室で吸わせてやったりと、別の意味でのサービスもしっかり行っています。
何せこうやって気を回してあげればあげるほど弱味を握り、そして便宜を図って貰えるようになる訳ですから、もう喜んでバジリスクタイム発動させますよね♪←
で、そんな晩餐会を終えた後に本命の闇接待を始めて、アヘンの嗅ぎ煙草や大麻エキスを混ぜたスパイスティーなどを振る舞い、酩酊させる時間を稼ぐ為にカード賭博やビリヤードに興じながら徐々に探りを入れていきます。
一対一の時はたっぷり酒を飲ませてからダチュラという自白作用のある植物を服用させ、割と露骨に何か知らないかと訊ねる事もありますね。
それと言うのもこのダチュラ、人を興奮状態にさせ、その後に昏睡状態に陥れさせるのですが、それらの症状が収まった時にはその間の記憶がなくなっているんです。
だから露骨に訊ねる訳ですが、ナツキは100%薬効を信じ切っている訳ではないので、記憶が残っていたとしても問題がないよう言葉を慎重に選んでいます。
こうして裏で冷静沈着に非道を重ねているナツキですが、表……民からは立派な領主として評判です。

●(領地が一つしかなく一揆など起こされたら本当に堪ったものではない為)農奴から決して暴利を取ったりはせず、仕事を分担制にする事で死亡率を下げつつ生産性を上げ、結婚する際に領主に収めなければいけない税も免除している。(ただし領外の者と結婚する場合はかなりの重税を課しています)
●(女だしそもそも色恋沙汰などには構っていられないから)ドゥワ・デュ・セニエル……初夜権と呼ばれる花嫁との性行為を別に要らんと突っ撥ねている。
●(諸侯を招く為に公共事業に力を入れているだけなのに)領主様は我々の事を考えて下さっているとマンセーされている。

などなど、実際の中世の時代を考えると、信じられないほど良心的な領主をやっています。
ただまぁ〝キレると怖い〟性格なので、裁判でも暴れるような荒くれ者が居たりすると、ええい私は忙しいんだ時間を取らせるな馬鹿者と容赦なく鉄拳制裁を与える事も多々ありますが(

ではなんだかんだ長々と語ってしまった所で本日は失礼します。
そして次の更新は具合が落ち着いて、ちゃんと内容を精査出来るようになったら行いますね……。
(主語が抜け落ちていたりと、普段ならあり得ない事をやらかしまくっていますの(´Д⊂ヽ)

拍手お返事

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阿炎 夜壱
皆様、こんばんは。
お返事だけしに現れた夜壱です。

なので早速本題をば。
あっ、勿論拍手のみの方もありがとうございます。
反応のあるなしで大分コンディションと言うか、モチベーションが違って来るので本当に助かっております(>人<)

『静なつバカ』様。
クルーガー卿カッコイイですよね!
あんな風に現れて顔の良い顔を至近距離で見せられたら、誰だって恋に落ちちゃうYO!w
だけどその一方でクラリッサさんが……(´Д⊂ヽ
こんな悲しい事件はこれっきり――と言いたい所ですが、残念な事でこれから度々起こるので、ネームドキャラと言えど油断せずに身構えておいて貰えたらと思います。(震え声)
とは言えこれから少しの間は4272のターンが続くのでご安心下さい!(*'▽'*)
(※ヒリついた空気がなくなるとは言ってない←)


では本日はこれにて失礼致しますm(_ _)m

WolfsBane Revenger3

クラリッサの近くに居た男が、一切の躊躇なく刃を振り落として白い軌跡を描いた。
すると赤い丸太が如き首が現れると同時に血が勢い良く噴き出し、それがシャワーのように地面に転がった〝顔〟を濡らして、血染めの瞳とルビーの瞳が最悪の再会を果たしてしまう。
最初シズルは突然の出来事に理解が及ばず思考停止に陥っていたが、凄惨極まりない光景を目にした事で逆に現実へと引き戻され、次の瞬間には錯乱を思わせる様子で激しく狼狽えた。

「ぁっ……あっ、なん、でっ……!?」
「ごめんなさいねぇ。この子が生きてると〝色々と面倒〟なのよ」

今は亡きクラリッサが言っていたように、シズル・ヴィオーラは可愛いだけの〝子兎〟などでは決してない。
いつだってたおやかな振る舞いを忘れない麗しのご令嬢ではあるが、その実どんな時でも冷静に状況を掴み、素早く判断を下すしたたかさと聡明さを秘めているからだ。
故に、シュヴァルツの男が嘲笑混じりに答えた一言で全てを悟ってしまった。

――クラリッサがシュヴァルツに協力していたのだ、と。

もしかしたら協力どころか彼女が率先してこの襲撃計画を立てていた可能性だってある訳で、シズルは思わず再び愕然となって言葉を失う。
だけどその一方で、どうして自分を売ったんだと思い悩んだりはしていなかった。
無論、このような仕打ちをされる真似をした覚えなど一切ない。
むしろ他所とは比べものにならないほど手厚く扱って、シズルも含めてヴィオーラ家の者は彼女に対して常に好意的に接していた。
しかし、それでも政治的な思惑が絡む事はよくある。
お目付け役とは言え彼女もまたレディと呼ばれるに相応しいご令嬢であり、恐らく生家から痛手を与えろとでも命令されたのだろう。
その生家の方も今まで色んな意味で面倒を看てあげていただけに些か信じ難かったが、何せヴィオーラ家は帝国の根幹に食い込んでいるだけに、実は疎ましく思われていたのだとしても全く不思議ではないし、親族の方が何かしらの恨みを持っていて、それで突き上げられたという事も普通に考えられる。

(そう……だから、そもそもうちらを破滅させる為に送られて来たスパイやった可能性も十二分にある)

いくら騙し合いに裏切り合いが当たり前な世界とは言え、彼女とは随分と長い間親しくしていたものだから、最初からそのつもりで近付かれていたのだとしたら流石に遣る瀬ないなとシズルは小さく唇を噛む。
目敏くそれに気付いたシュヴァルツの男は口角をニィッと厭らしく吊り上げると、手にしていたグレイヴと言う名の長柄武器を見せ付けるように構えた。

「あぁ安心して? 身代金を貰い次第、星の世界でこの子と再会させてあげるから♪」
「なっ、正気どすか? うちを殺せばどうなるか……判らへん訳ではありませんやろ?」
「えぇ勿論判っているわ。でもだからこそよ。
空腹は狼を森から外に出させるラ ファン フェ ソルティール ル ルー デュ ボワ……溺愛している一人娘を殺されたとなれば、彼の筆頭顧問官様も重い腰を上げずにはいられない。
〝偶然〟その事を知った他の貴族様達は、さぞ喜び勇んで色々と仕掛けるでしょうねぇ?」

人は必要に迫られると、普段はしないような行動を取るもの――娘を取り返す為に大きな痛手を負った所を諸侯に付け込ませると、暗にそう言ってせせら笑った男にシズルはゾッとする。
それは単に家族の命が危ないからというだけではない。
より大きな動乱を引き起こす火種の予感を覚えて総毛立ったのだ。

「まさか……」
「そう、そのまさかよ。皇帝アルゴス十四世の意向を受けて、高等法院に強いコネクションを持つアナタの父親がアタシ達に有利な法案を通さないようにしているのは周知の事実!
故に権力争いを起こさせて、このクソみたいな状況を引っ繰り返すのよ!」
「っ、筆頭顧問官の頭が挿げ変わった所で変わる事なんてなんもあらへんっ。
むしろなし崩し的に均衡状態が崩壊して、最悪内戦がまた勃発する事になる……そしたらあんたはんら移民の生活が今よりもっと苦しくなるだけどすえ!?」
「だからこそ革命を起こすチャンスなんじゃない!
貴族達はお互いを潰し合う事で権力も財力も擦り減らし、そして戦いに駆り出されて疲弊した農奴や平民達がアタシ達の味方になる。
ただでさえ税の徴収に苦しめられているんだもの、喜んで力になってくれるわ。
そしたらチェックメイト……使える駒のないプレイヤーは、ただ首を獲られるしかない。
晴れてアタシ達の時代がやって来るって寸法よ!」

嬉々として語る男の話に、シズルは思わず眩暈がした。
何もかも荒唐無稽で、夢物語としか思えなかったからだ。
だがしかし、筆頭顧問官の命を見事散らしてみせたのならば、その限りではない。
凋落した貴族を一人でも捕まえて領地を担保に傭兵団を雇わせ、目標を違えず確実に貴族達の首を落としていけば、いずれは立派な軍隊となり本当に革命だって成し遂げられるだろう。
当然そんな上手く事が運ぶとはとても思えないが、それでもこの男達は本気で一縷の望みを賭けて自分を狙った……そう理解したシズルは、正気で狂っている男に何も言葉を返す事が出来ない。
すると不意に後方から馬の嘶き声が響き渡ると共に、シュヴァルツ達から悲鳴とどよめきが上がった。
突然の事態に主犯格の男は「何事!?」と叫びつつもしっかり武器を構えながら顔を向け、シズルも一緒になって荒事の気配がする方向を見遣る。
そして刹那、ハッと息を呑んで目を瞠った。

――何故なら白馬に乗った蒼の貴公子が、サーベルサブルを片手に悪漢共の群れに突撃していたからだ。

玲瓏としか言いようがない容姿端麗さ。
身体の線は細く、戦えるような人にはとても見えない。
それなのにゾッとするほど鋭い眼光を放ちながら、並み居るシュヴァルツ達を一切の躊躇いなく次々と斬り捨て、そして立派な馬を巧みに操って自分の方に向かって来る果敢な姿に、シズルはすっかり息をする事も忘れてしまう。
だが首謀者からすれば見目なぞどうでもよく、いきなり現れた敵に狼狽するばかりであった。

「なっ、なんなのよアンタ!? どうして領主サマがこんなとこ」
「喧しい」

ただ一言、冷酷無情にそう吐き捨てた貴公子は、シュヴァルツ達を纏めていた男の首を刎ね飛ばした。
それは易とも簡単に、まるでチーズをスライスするかのように、スパ、と一瞬で骨肉が削ぎ落され、シズルの足下に二つ目の頭がごろりと転がり込んだ。
一体なんの因果かそうして立て続けに二度も人の死に顔を目の当たりにしたうら若き乙女は、いくら常人より気丈夫と言えどこれには参ってしまって一気に血の気を失う。
でもそんな暇はないとばかりに「ご令嬢!」とアルトボイスに耳朶を叩かれ、それによって命の恩人のご尊顔をようやく真正面から拝す事が出来た。

「さぁ手をっ!」
「ぁ、はい……」

鬼気迫る声でそう求められた事でシズルは火に誘われる蝶のように手を差し出し、その瞬間、腕をガシッと掴まれて無理矢理引っ張り上げられた。
お陰でドンゴロス……小麦を入れた麻袋のように馬の上に横たわる事となり、淑女としてあまりに恥晒しな姿にシズルはバッと顔を上げる。
するとタイミングを同じくして腰を抱え込まれ、「脚を上げて」と囁かれた。
こんな所でモタモタしていたら残党に囲まれて身動きが取れなくなるのは判っていた為、シズルは即座に言う事を聞いてすっぽりと腕の中に収まる。
初めて会う殿方、それもいきなり胸に抱かれるなんて……そう思ってつい身を硬くするシズルであったが、一拍も置かない内に妙な違和感を覚えて貴公子の顔をまじまじと見詰めた。

(ぁ、この人――…………ほんまに、綺麗)

遠目から見た時もシズルはそう思っていたが、間近で姿を目の当たりにした事で一段とその気持ちが強くなった。
何せ彼の者は精巧に出来た石膏のように美しく、エメラルドを思わせる瞳を持ち合わせ、本当に青い血が流れているのではないかと思うほど肌が青白い。
自らもまた神からもたらされた彫像のような存在だと言うのに、目の前にある神の造形物と見紛わんばかりの〝麗人〟の姿にシズルは完全に見惚れてしまい、胸に浮かんだ〝疑問〟なんてすぐにどうでも良くなってしまった。
しかし事態は相変わらず逼迫している。
それだけに敵を鋭い目付きで捉え続けていた勇士は、こんなに至近距離に居るにも拘わらずシズルの熱視線に気付く事は全くなく、そんな怨敵に対してシュヴァルツの残党は怨嗟の籠った怒声をぶつけた。

「ル、ルーメン様っ!! クソッ、貴様よくもルーメン様をッッ!」
「ふむ……その口振りからして、コイツが首魁だったのか。ッチ、惜しい事をしたな」

麗しの君は今し方斬り落としたばかりの生首を一瞥して詳しい犯行理由を訊ねられなくなった事に舌を打つなり、おもむろに鮮血が滴り落ちるサーベルを掲げて声高に告げた。

「我が名はナツキ・クルーガー! この地を治める領主である!
既に応援を呼び、貴様らはもはや追い詰められた鼠も同然だ!
よって無為に命を散らしたくなければ、大人しく我がテリトリーから疾く失せよッ!!」

喊声を彷彿とさせる気迫でそう主張したナツキに残党達はざわついた。
威風堂々としたその態度からは嘘を吐いているだなんて全く思えない……が、しかし。
ナツキが応援を呼びに行く時間なんてこれっぽっちもなかった上に、他の連絡手段も全く持ち合わせていなかった訳で、詰まる所ナツキは正真正銘ハッタリをかましていたのである。
だがシュヴァルツがそんな事を知っている筈もなく、またデュランが唸って地面をガッガッと力強く引っ掻いて威嚇するのも手伝い、文字通り頭を失って著しく戦意を喪失したシュヴァルツ達はじりじりとある地点まで後退ると、急に身を翻して森の中へと姿を消して行った。

「……っふぅ、助かったな。さてレディ、お怪我はありませんか?」
「えぇ……えっと、あなた、様は」
「あぁ、さっきも言った通り私はこの領地を治めているナツキ・クルーガーです。
なので決して野蛮な人間ではないが……しかしレディ、貴女を我が城へと攫わせて頂こう」
「えっ」
「お可愛らしい顔が汚れてしまっているからです。
それにお召し物も……とても着れたものではなくなっていますし」
「そう、ですね……」

咄嗟に標準語で声を返したシズルは、自らのドレスが血に彩られている事に気付いた。
それは言わずもがなクラリッサのものであり、また多少なりともルーメンと呼ばれた男の血も裾に付着している。
その所為で紅い瞳からすぅっと生気が抜けていくが、ナツキが突如として袖口が汚れるのも構わず腰をがっしりと抱き抱えてくれた事で光を取り戻し、頬にも紅が差して鮮やかなものとなった。

「では行きましょう。落ち着いたら、詳しい話をお聞かせ下さいね?」
「はい……クルーガー卿」

ナツキからすれば、シズルはまだどこの誰とも知らない娘でしかない。
けど馬車の豪華さや身に着けている物から見て自分と同じ立場のご息女ではない事は確かで、だから下手にドジを踏まないように礼儀を尽くしているだけなのだ。
シズルの方も思いがけず見惚れたとは言え、今は単純に興味を惹かれただけに過ぎない。

――しかしこの出逢いは、二人にとって間違いなく運命だった。

WolfsBane Revenger2

山道を走っている所為で、豪華な装飾が目を惹く馬車がガタガタと軋んだ音を立てている。
故に結構な振動が絶え間なく続いており、中の人――うら若き令嬢であるシズル・ヴィオーラはげんなりとした様子を見せていた。
しかし彼女が悄然としているのは、それだけが理由なのではない。
ゆるやかに波打つ亜麻色の美しい髪、宝石の女王と称されるルビーの如き紅い瞳、ふっくらとした小さな唇に、透き通るような白い肌……まさに麗艶という言葉を体現したかのような容姿によって、シズルはまだ社交界デビューもしていないのにあちこちの貴族からアプローチされて困っていた。
中には熱心が過ぎるあまり後を付け回して来る者も多くおり、シズルはそんな野獣連中から逃れるべく、こんな明け方にクルーガー領を訪れていたのである。
でもそれだけに狼の家紋を持つ土地でオオカミ達に狙われるなんて全く笑えない冗談だと、眉尻を下げるついでに肩もガックリと落とした。

「はあ。まさかバカンスに来てまで、こないに気ぃ回さんとあかんやなんて……ほんま世知辛い世の中やわ」
「ふふ、仕方ありませんよ、お嬢様は大変見目麗しいのですから。だからこそ早く社交界に出て、適当な殿方を見繕えばよろしいのに」

お目付け役として同行しているクラリッサ・ホーにそう言われた瞬間、シズルはまた始まったかと内心肩を竦めた。
貴族の娘は所詮政治の為の道具でしかなく、またどの家もお荷物になる前にさっさと出荷しておこうと考えており、当事者自身幼い頃より施された〝英才教育〟によってそれが当たり前だと思っている。
だが、シズルはそんな常識が嫌で嫌で仕方がなかった。
好きでもない男の妻となるだけでもゾッとするのに、社交界で日夜人脈の維持と開拓に勤しみ、その合間に城内や領地の財務管理や経営に携わりながら皇族にご機嫌窺いの手紙を頻繁にしたため、そして息吐く間もなくサロンの為に集まった貴婦人方を手厚くもてなし、その流れで音楽家や文化人のパトロンとなる事など、ただでさえも気疲れでどうにかなりそうだと言うのに、貴族としての余裕と嗜みを方々に誇示しなければならない。
しかもそれら全てを寝る間も惜しんで全うしても、当然の事をしているだけだから夫から別段労われる事もなく、それどころか暴力を振るわれるのが当たり前だった。
そうと知っていて、どうして結婚したいなどと思えるだろうか。
特にシズルはリアリストなものだから、ロマンス小説に憧れる他の令嬢のように素敵な恋をして愛のある温かな結婚生活が送れるなんて夢すら見ない。
勿論いずれ家柄が〝そこそこ〟良い誰かと結婚しなくてはならないのは判っていた。
それが自分に課せられた最大で最低限の責務であり、それを果たす事でここまで育ててくれた両親への最高の親孝行になるという認識もちゃんとある。
でも理解と納得はやはり別で、出来る限りこのモラトリアム期間を引き延ばしていたかったシズルは、バカンスを理由にいい加減社交界にくらいは出なさいと口煩く言ってくる親から逃げて来たのだ。
なのにこうしてお小言がしっかり付いて回って来たとなれば、辟易となってしまうのも仕方がない訳で、普段は愛嬌のあるポーカーフェイスを決して崩さないシズルだが、あまりにも嫌気が差した所為で珍しく人前で憮然とした表情を露わにした。

「好き好んでオオカミの群れに身を投じる子兎がどこにおると言うんどすか」
「まあ、お嬢様が子兎? ご冗談を」
「クラリッサさん?」
「あら……お、おほほ、お口が過ぎましたね」

お目付け役は笑顔を浮かべて誤魔化そうとしたが、もう既に何もかもが手遅れである。
何しろ薄っすらと開かれたシズルの瞳から、毒蛇を思わせる艶めかしい眼光が放たれていたのだから。
しかしシズルはこれぐらいの事で本当に気分を害すほど器が小さくなく、またこのお目付け役とはもう数年の付き合いがあるだけに、次の瞬間にはフッと笑みを零して「お気になさらず」と声を掛けてやる。
そしてそれにホッと安堵した様子を見届けてから、おもむろに外の風景へと目を向けた。
ようやく空が白み始めた事で眼下には深い緑がどこまでも広がり、未だに雪化粧が残る山脈が遠くに窺える。
今回初めてこの地方を訪れたシズルは、噂に違わぬ風光明媚な場所だと静かに感嘆した。
だが荘厳なほどに雄大な眺めからすぐに目を逸らして、どうしてかなんの面白味もない地面の方をジッと見詰め始める。
それと言うのも、こんな寂れた山道であると言うのにしっかりと舗装されているお陰で、馬車の振動が最大限抑えられていたからだ。
当然、そこになんの問題もありはしない。
むしろここまで細やかな心配りをしている領主に感服する。
でも、だからこそシズルは思わずにはいられなかった。
(諸侯の靴を舐めるバター犬……この二つ名も聞いた通りみたいやね)と。

様々な才能に恵まれたクルーガー家だが、その所為か変わり者が多く理解が及ばない事が少なからずあった。
その中でも、末裔のナツキ・クルーガーは特に訳が判らない。
滅多な事では社交界に顔を出さない割に他の貴族を領地に招いては媚を売り、しかし政治的な駆け引きなどは一切せず、ひたすら歓待して談笑に興じるばかり。
あぁ、だからつまり、敵対する気はないから最後に残った領地だけはどうか奪わないでくれと、必死に靴を舐めて回っているのだろう。
かわいそうに、まるで犬のようだ。
かつて栄華を極めていたクルーガー家も、ついに語るに落ちてしまったな……ハハ、ハハハ!!

諸侯らや子息令嬢を問わず、カントリー・ハウスの話が出る度に必ずと言って良いほどクルーガー家の話題となり、エスプリ才気溢れる皮肉も何もないただの悪口を誰もが笑いながら吐き出していた。
所詮は他人事なのもあってシズルは一度だってその話をまともに聞いた事はなかったが、常軌を逸した配慮の片鱗を見せられては、なるほど、その通りかも、と納得せざるを得ない。
となれば上級貴族の娘である自分にどんな手練手管で迫って来るか判らないなと考えて、シズルは後に控えている挨拶を思って頭が痛くなった。
だけど淑女たるもの、露骨に嫌そうな顔などは見せられない。
それが例え、親愛なるお小言製造機の前でも……と、そんなロクでもない事を思いながら居住まいを正したシズルは、ふと目の前の婦女子の様子がおかしい事に気付いた。

「クラリッサさん? なんや落ち着きがありませんけど、どないしました?」
「えっ。ぁ、いえ、別に何も……」

そうは言いつつも、お目付け役の顔色はよろしくなかった。
もう結構な長旅をしているし、そもそもこの人は身体が強い方ではない。
御者に言って一旦休憩を挟んで貰おうかしら――シズルがそう考えた刹那、急に馬が立ち止まったようで非常に激しい揺れと衝撃が二人を襲った。

「な、何事どすか!?」

シズルは動揺の声を上げつつも、状況を掴む為にすかさず視線を外へと走らせた。
すると御者の悲鳴が上がると共に、黒装束の不気味な集団が武器を片手に構えているのが見えて、あぁこれが最近世間を騒がせている過激派組織、〝シュヴァルツ〟なのだと思わず息を呑みながら察した。
この国では、移民は奴隷かゴミのような存在でしかない。
それなのに流れ込んで来る者が後を絶たなかった。
何故なら元々彼らは近隣国家の貧困層で、戯れのような紛争の最前線に送られては命を無駄に消費させられているからである。
だから殺されるくらいならと寛大を謡っている敵国に慈悲を求めた訳なのだが、世間体を守るべく戦いに投入される事こそなかったものの、人権などないも同然の扱いで最底辺の肉体労働を強制されているのが実情であった。
その暮らしぶりは政治犯や精神病者がひしめいている事で有名な刑務所に居た方がよほど天国だと言われており、だからこそ近年我々にも人権をと訴える活動が各地で広がっていて、ついには武器を持って貴族を襲う過激な集団、シュヴァルツを名乗るようになった。
それだけ聞くとつい同情してしまうが、一方で貴族やその親族を人質に取っては莫大な身代金を要求し、それが叶わないとなったら平気で首を斬り落とす凶悪な賊の一面も有している……むしろ最近ではこちらが主な活動となっているだけに、慌てず騒がず「身代金を払います」と真っ先に告げる必要があった。

(まさかこんな所でうちが狙われるやなんて……いえ、こんな場所やからこそ、やね)

慎重を期していたつもりだが、どこからか情報が漏れてしまったのだろう。
だから助けなんて呼びようもないこんな山道で襲われたに違いない。
シズルはそうして冷静に事態を分析しつつ、傍らのクラリッサを見遣った。

「クラリッサさん、ともかく落ち着いて大人し」
「お嬢様逃げて下さい!!」
「えっ?」

クラリッサは片手でドアのロックを外すと同時に、シズルを外に突き飛ばした。
――森が広がっている方ではなく、シュヴァルツが集結している崖側へと。
なんで? どうしてこんな真似を? 動揺していたから?
シズルは瞬間的にそんな考えを巡らせるが、すぐに地面に叩き付けられた所為でそれどころではなくなった。

「シズル・ヴィオーラ、貴女には人質になって貰うわよん♪」
「……判ってます。一体なんぼ払ろたらよろしいんどすか?」
「アラァ、話が早いわねぇ。流石ヴィオーラ家のご息女と言った所かしら?」

全身を黒い装束ですっぽりと隠している所為で見た目から性別を判別する事は出来ないが、しかしシズルに切っ先を突き付ける人物は声からして明らかに男性だった。
それだけに増々底知れぬ不気味さを漂わせているが、でもそれ以上にシズルはやはり自分が何者か判った上での犯行だと確信して、そちらの意味でより一段と警戒心を強める。
すると不意に「お嬢様……すみません」と声を掛けられた。
振り返れば当然クラリッサが居て、今にも泣きそうな顔をシズルに向けている。
そうして口にした言葉は、後ろめたさで一杯になっているその表情は、一体どんな気持ちから生み出されたものなのか……全く判断が付かなくて、シズルは困惑の眼差しをクラリッサにぶつける。

だが、刹那――その顔が、落ちた。

426の日(だったので)!

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阿炎 夜壱
皆様、こんばんは。
426の日の当日……つまり数時間前に絵を描こうと思い立ったので普通に遅刻してしまった夜壱です^^;

なので前置きは置いておいて早速ソイッ!

2023426days.png

……シンプル過ぎて、いかに大慌てで描いたか伝わったかもしれませんね。(苦笑)
でも大事なのはお祝いしたいって気持ちなのでヨシ!←
それでは夜も遅いのでこれにて失礼しますm(_ _)m

WolfsBane Revengerの解説

皆様、こんばんは。
今日は本編の更新ではなく、解説の方を持って来た夜壱です。

あ、書くのが間に合わなかったとかそういう訳ではなくて、事前に説明しておいた方が良い情報があったのでそちらを優先させる事にしました。
なので更新を楽しみにされていた方には申し訳ないのですが、木曜日にまた覗きに来て頂けると幸いです。m(_ _)m
それで説明したい事と言うのは、WolfsBane Revengerの世界観と爵位制度についてです。
と言っても世界観はこれまで何度か説明してる訳ですが、時代背景についてはまだちゃんと言及していなかったと思うので、今の内にお話ししておこうと思った次第です。
では簡単に画像にまとめたので以下どうぞ!
WolfsBaneRevengerillustrate01.png
(画像を押すと拡大します)

最低限これだけ知っておけば問題ないです。……多分!w
取り敢えず皇帝~侯爵までは余程の事がない限り血統の証明みたいなもので、それ以降は栄誉称号だとザックリ捉えて貰えれば大丈夫かと。
一応割愛した準男爵(バロネット)とナイトについて話しておくと、準男爵はイギリスのみに存在する爵位で、しかも17世紀初頭に生まれた&法律上は平民として扱われるので貴族社会を描くWBRには登場しない概念です。
そしてナイトの位は大きな功績を上げた騎士にご褒美として与えられるもので、一代限りのものだから子供に継がせたりと言った事は基本的に不可能です。
謂わば国民栄誉賞みたいなもので、それを誰かに譲ったりする事なんて出来なくて当たり前ですよね。つまりはそういう事。
なので爵位持ちではありますけど貴族とはみなされず、また国王や諸侯から荘園(ちょっと広大な土地)を与えられますが、表立って子供に引き継がせる事も出来なかったと言います。
それとWBRではチラッと一瞬出て来る予定の爵位です。

あとは、そうですね……爵位は個人に対してのみその国のトップから与えられるもので、例えばナツキのパパ上が辺境伯を有していましたが、イコールでナツキも辺境伯の位を持っていた、とはなりません。勿論ママ上もそうです。
本当の本当に、〝個人〟にだけ叙勲されるものだからです。
だから爵位の継承が行われる前にパパ上が亡くなってしまったナツキは大叔父から貰った男爵の爵位しか持っておらず、また地方の田舎に住んでいて国に何か特別な貢献を出来るような環境になく、他の領地をいくつも買収して力を誇示するような財力もない為、非情にもどかしい立場に居ます。
また爵位が貰える条件ですが、戦争、政治、疫病への特効薬など、色んな意味で国家に多大な功績を挙げた者、に限られます。
まぁお金で買えたりもするんですが、その場合は一代限りなので世襲などはさせられません。
ちなみに何故お金で爵位を買う層が居るのかと言うと、免税特権など爵位を持つと有利な点があったからです。

――っと、補足はここまでにしておきますね。
あんまりズラーッと説明されても、訳判らないと思うので^^;
あと懸命に調べて情報を精査したつもりではありますが、付け焼刃も付け焼刃、にわかもにわかなので、もしかしたら認識が間違っている部分があるかもしれません。
その場合、WBRの中ではそういう設定なんだと思っておいて下さいw
ですが間違いがあると気付いた方がおられましたら、是非教えて貰えると助かります。
出来る限り修正&反映させますので><
あ、でも社交界設定は敢えて取り入れておりますので、そこはスルーで大丈夫ですw
(※社交界が盛んになるのは19世紀(1801年~1900年)頃から)

そして最後にちょっとだけシズルさんのお話をば。
――中世貴族の社会で京言葉ってどないしたらええねんorz
そう思って延々と悩んでいたんですけど、もうこればっかりは仕方ないので対処を諦めました(苦笑)
東の方から移住して来た一族で……とか、日本人の妻を娶った結果シズルさんが……とか、一応そんな風にやれなくもありませんでした。
がしかし! 地位が……シズルさんの地位が、高過ぎて逆に無理なんですっ……!!
一体どういう事かと言うと、以下理由を箇条書き。

①移民が上級貴族になってるとかあり得ない。
②中世の貴族がわざわざ日本人の妻を娶るなんて到底考えられないし、そもそも15世紀前後ではまだ日本と交流持ってないからこの設定自体に無理がある。
 (なんらかの理由をでっち上げる事は出来るけどそこまでやる意味がないし、苦し紛れ感が酷そうだからやらない方が無難)
③シズルさんが上級貴族でないとか考えられないので、ここには絶対手を加えられない。

そんな訳でシズルさんの方言は帝国内にある地方の訛りで、我々の目には京言葉に見える、と言うご都合主義極まりない独自ルールを敷かせて貰う事にしました!!
(※海外ドラマに登場する方言キャラのセリフを、我々に馴染みのある言葉で翻訳されてる、とお考え下さい)
……いやホントね、酷いとは思うんですけど、どうしようもなくって(ノノ)
とは言え方言を出すのは基本身内やナツキに対してだけで、公衆の面前などではなるべく敬語を使うようにするつもりです。


と言った所で本日はここまで!
次の更新を楽しみに待って頂けたら嬉しいです^^